電脳遊戯 第21話


C.C.達がアッシュフォード会議に出席している間ルルーシュは眠っていた。
ゲームの世界に閉じ込められたことと、普段からの激務によるストレスと疲労は一日二日休んだところで取れるはずもなく、ルルーシュには休息が必要だという理由をつけて、こっそりとロイドが夕食に睡眠薬を盛り、昨日から眠らせ続けているのである。
昏々と眠り続けるルルーシュを、ジェレミアは寝ずの番で守り続けていた。

今回の作戦の最大の障害、それはルルーシュだった。

スザクはゼロレクイエムのシナリオを、ルルーシュを悪にするのではなく、黒の騎士団とシュナイゼルが悪となるよう一部を作り変え、ルルーシュには賢帝として世界を平和に導いてもらうよう変更する案を提示した。
そもそもルルーシュの死は、ルルーシュとスザクが固執していたものだったため、その一角であるスザクが取りやめる意志を見せたことに、C.C.とジェレミアだけではない、ロイドとセシルも心の底から喜んだ。
だからあの日ルルーシュの説得に向かったのだが、頑固者のルルーシュの説得は難航し、自分は賢帝になどなれないし、これ以外に憎しみの連鎖を断つすべはないと理詰めでこちらを説得し始める始末で、何を言っても頑なに首を縦に振らなかった。
そしてアッシュフォード会談の日が近づき、ルルーシュは予定通りその日、正義の皇帝から悪の皇帝となる事を皆の前で宣言した。
それだけは阻止しなければ。力づくでも止めなければ、ルルーシュのシナリオ通り、ゼロとしてルルーシュを殺さなければいけなくなると焦ったスザクは、実力行使に出ることにした。こうなったら、多少ルルーシュに怪我をさせるのは仕方がないと考えたところで、ふとあのゲームの世界での会話を思い出した。
怪我をしたことも隠し、平然とした顔で、声で皆を騙したルルーシュ。
どれほどスザクが暴力を振るったところで意味は無い。ルルーシュは痛みを隠して平然とした顔で悪を演じるだろう。力で考えを変えるような相手ではない。
ぎり、と音がなるほど奥歯を噛み締めた時、もし脱出できなかった時、ゼロレクイエムをどうするか話をしたことを思い出した。
そうだ、C.C.に影武者をさせるとルルーシュが言っていた。
誰にも見破れないほど瓜二つになれる咲世子の変装道具。
それを使えばルルーシュに変装することが可能だと皆に相談し、このような強攻策に出たのである。

強制的な眠りから目覚めたルルーシュは当然激高し、激しく怒鳴り散らした。
だが、ゼロであるルルーシュの命を狙うはずのニーナと、ミレイとリヴァルまで味方にしてしまっていた。更には二人はジェレミアのキャンセラーで記憶を回復済みだった。

「ル~ル~ちゃ~ん、男の子でしょ、潔く諦めなさい。このまま賢帝になればいいのよ。ナナちゃんの願う世界を作って維持できるのなんてルルちゃんしかいなんだから」
「そうだぜルルーシュ。お前が死んで、このスザクにお前の代わりなんて無理無理。ぜ~ったい無理だって。大体さ、お前各国の代表に夢見過ぎだぜ?絶対利権を巡って争い出すって。実際黒の騎士団だってそうなんだろ?」
「だがリヴァル。あれは利権ではなく、俺のこのギアスを恐れて」
「いーや、それだけじゃぁない。だって聞いたぜ?今も各国が議長を交代させたり、黒の騎士団の上層部を入れ替えようとしてるのに、それに応じようとしてないだろ。お前のその力が怖いってだけなら、その事をちゃんと説明して、お前がゼロで、こうこうこういう理由だから危険だ。だから自分たちがって話ならまだわかるけど、そういうのも無いみたいだしさ」
「だいたいねぇ、シュナイゼル殿下って、黒の騎士団から見れば完全に敵のNo2よ?そのあいてとトップであるゼロ抜きで勝手に話をし、あいての話を丸々信じちゃってるんでしょ?敵なんだから、持ってきた情報なんて信じられるわけ無いじゃない。ちょっと考えれば理解ることでしょ?それもわからないお馬鹿に世界任せるなんて無責任よ」

黒の騎士団の幹部って馬鹿すぎるでしょ。
呆れた声でミレイは吐き捨てるように言った。
それを言われてしまうと、ルルーシュは何も言えない。
自分だって思ったのだ。
どうして信じるんだそんな話、と。
だが、あの場面ではルルーシュが撃たれるのは確実で、せめてカレンだけは救いたいと話に乗りはしたが、あいつらを幹部にしたのはやはり間違いだったんだと痛感させられた事件だった。

「カグヤだってそうだよ?扇達の言葉を完全に信じて、君を悪逆皇帝って言うんだからすごいよね。あれだけゼロの妻だってアピールしてたくせに、手のひらを返すのが早すぎるよ」
「「「お前が言うな!」」」

ミレイ、リヴァル、C.C.は思わずツッコミを入れた。
誰よりも手のひら返しが早いのはこの騎士だ。
あれだけユーフェミアの仇と言っておきながら、セブンがルルーシュを襲うことを知り、ルルーシュが・・・!と慌ててからはコロッと態度を変えた。
今まで実感がなかったルルーシュの死がはっきりと目の前に写り、その上自分以外の男に穢されるという事実に、停止していた思考が動き出したのか、独占欲が暴走したのかは分からないが、なんにせよ180度態度を変えた。
あの電脳世界にいる間に今まで胸の内に仕舞いこんでいた思いと向き合い、世界より自分の感情を優先することにした。
ルルーシュを失いたくはない。
ルルーシュは、ルルーシュの命は俺が守る。
大体、ゼロレクイエムは間違っている。
罪を償うために死を?
それは逃げだ。
死んで罪を償うより、賢帝としてその命を賭けて世界を平和に導く事こそが正しい贖罪で、ゼロレクイエムで裁かれる予定だった悪の皇帝の替わりに、実際にやらかしている黒の騎士団幹部と、フレイヤを持ったまま身を隠しているシュナイゼルを裁けば丸く収まるじゃないかと、スザクは自分の脳をフル回転させて結論を出した。
ルルーシュを裏切った黒の騎士団と、追い詰め殺そうとしたシュナイゼルは許せないから一石二鳥だ。
その案にはルルーシュを除くゼロレクイエム関係者は全員賛成。より良い案になるよう話し合いもされた。
贖罪だからルルーシュは皇妃を娶り子供を作るなんて許されないし、そうなったら彼の唯一の騎士である自分が彼を慰めるべきだよね?という案は即却下された。
だが、却下された程度で諦める騎士ではない。
今後も注意が必要だと周りはますます警戒した。
そうして行われたアッシュフォード会談は、カグヤと黒の騎士団の暴走と自爆もあって、難なくルルーシュ外全員の思惑通りの結果となった。
それでもまだ軌道修正しようルルーシュは足掻いた。
あの会談は世界中が注目し、カメラまで入っていた。
最高の舞台だった。
それを邪魔されたのだから、代わりの舞台をセッティングする必要が出た。
だが、ルルーシュを一生守ると決めたスザクは持ち前の独善と行動力でルルーシュのペースをどんどん壊していった。
流石ルルーシュ専用最終兵器、イレギュラー・スザク。
ルルーシュの策を潰すのに、これほど心強い味方はいない。
いかに綿密に作り上げた策でも、スザクが起こすイレギュラーの前には無力だった。
だが、ルルーシュは諦めない。
必ず計画を進めてやると燃え出したので、スザクはゼロの仮面を持って一言。

「いい加減諦めろ、ルルーシュ。あんまり駄々をこねるから、会長さんがリヴァルと二人でゼロの正体をバラす準備を始てたよ?」

なんか、世界を巻き込んだお祭りにするんだって。
こうしてルルーシュはスザクの望み通り、ゼロレクイエムの計画変更を余儀なくされた。




シュナイゼルがフレイヤをペンドラゴンに投下しなかったのは、ルルーシュが気絶したからです。あくまでもルルーシュはペンドラゴンが消失した瞬間を目撃し、そのタイミングでナナリーという最強カードを切る必要があったので、タイミングを逃した。<br> ・・・ということで。

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